眼科クリニックで看護師をしています。楽しいと言ってしまっていいのかどうか、わからないのですが、「見える」ことに関することはすべて「眼科」でみてもらえばいいと勘違いされている患者様方。
微笑ましくも、悩ましく、私たち眼科スタッフを混乱させる数々のエピソードをお話したいと思います。
以前来られた40代の女性、診察室の椅子に座るなりこうおっしゃいました。「先生、うちの中に知らない男の人がいるのが見えるんです」一瞬、ドクターも私も絶句しましたが、最終的には「警察に行ってください」という話に落ち着きました。
また別の女性は「死んだおばあちゃんが見えるんです」と真顔でおっしゃいました。
私たちにどうしてほしいのか、意図を図りかねていたのですが、ひととおり話をされると、安心されたようです。
「ありがとうございました」と笑顔で帰宅されました。
1カ月ほど前に来院された若い男性は「他の人たちが、自分のことをバカにして笑っているようにみえる」と来院されました。
大変、申し上げにくいのですが、診療する科を間違っておられます。心療内科の受診をお勧めしました。
ある女性は、目の前に黒いものがたくさん見えると言って、あわてて来院されました。
このような症状を「飛蚊症」といい、重篤な症状、例えば網膜剥離などで発生する場合があり、眼科では緊急の対応が必要になる事例です。
職員一同に緊張感が走りましたが、よくよく話を聞いてみると、別の病院で白内障の手術をして、見えにくかった視力がすっかり改善したとのこと。
そのため、以前は気づかなかった、自分自身の顔じゅうのシミを「黒いもの」と勘違いされたようです。
これから、白内障の手術をされる予定の女性の方、十分、気を付けていただきたいと思います。
先日、50代の男性が来院されました。その方も先述した「死んだおばあちゃん」のケースと同じように、見えるはずのないものが見えるようですが、最近、急に見えるようになったらしく、混乱されている様子。
「先生、私、霊が見えるようになったんです。どうしたらいいでしょうか。」と言ったまま、泣き出さんばかりの表情。
もちろん、ご本人は真剣です。念のため、一般的な眼科検診を行い、異常がないことが判明しましたので、「ストレスをためないように、体調を整えて」などのあたりさわりのないアドバイスをして診察を終えました。
その数分後、私が受付のあたりを歩いていると、ぐいと誰かに腕をつかまれました。驚いて振り返ると、さっきの患者さんです。
その表情は、何が恐ろしいものをみたとでも言うような、緊迫した表情。そして、こうおっしゃったのです。
「看護師さん、トイレに・・・・トイレに、目玉の霊が見えます!」そう言われて、はっとしました。
眼科では手術の説明をするために、目玉の模型を使用するのですが、それをトイレ掃除の際、洗面所に置き忘れてきたことを。場違いな場所に置かれた、目玉の模型。確かにぎょっとする光景ではありますが、特にこのような精神状態の方には、刺激が強すぎたようです。
大丈夫ですよと言おうとしたのですが、私もあわてていたのでしょう。思わず、こう言ってしまいました。
「大丈夫、あれは、私にも見えますから」そう言うと、患者さんは、一瞬、驚いたような顔をして、少し何かを考えるような表情をしたあと、ほっとしたように微笑んだのです。しまったと思いましたが、訂正するうまい言葉が見つかりません。
きっと、あの方は、私のことを「この人も同じなんだ」と感じ、「自分はひとりではない」と思ったのでしょう。
そのまま、患者さんは、受付で会計をすませ、最後には私にむかって、深々とお辞儀をして帰っていかれました。
たぶん、私の表情は引きつっていたと思いますが、患者さん自身が穏やかな気持ちになれたのなら、それはそれで、良かったのかなとも思っています。